帯状疱疹は、通常、皮膚の発疹と神経痛が主な症状ですが、非常に稀なケースではありますが、運動神経を侵すことで運動機能障害という後遺症を引き起こすことがあります。この合併症は、患者さんの身体活動に大きな制限をもたらし、生活に深刻な影響を与える可能性があります。運動機能障害は、帯状疱疹が脊髄神経節から伸びる運動神経線維を損傷することによって生じます。帯状疱疹ウイルスが神経節に再活性化し、その炎症が隣接する運動神経に波及することで、神経の機能が一時的または永続的に損なわれるのです。その結果、神経が支配する筋肉が麻痺したり、筋力が低下したりする症状が現れます。具体的な症状としては、帯状疱疹の発疹が出た部位に対応する筋肉に力が入りにくくなる、感覚が鈍くなる、あるいは全く動かせなくなる、といった麻痺の症状が見られます。例えば、胸部や腹部に帯状疱疹が発症した場合、その部位の腹筋や肋間筋が麻痺し、体のバランスが取りにくくなったり、呼吸がしにくくなったりすることがあります。また、腕や脚に帯状疱疹が出た場合には、手足の動きが制限され、歩行困難や細かい作業が難しくなるなどの症状が現れることがあります。これらの運動機能障害は、帯状疱疹が治癒した後も残存することがあり、日常生活における動作に大きな支障をきたします。食事の準備、着替え、入浴、移動など、これまで当たり前に行っていた動作が困難になることで、患者さんの自立性や生活の質が著しく低下します。精神的な負担も大きく、うつ病や社会的な孤立につながることもあります。運動機能障害を発症しやすいのは、帯状疱疹の症状が重度であったり、高齢者であったりするケースが多いとされていますが、若い世代でも発症する可能性はあります。このような稀な合併症の場合、早期診断と集中的なリハビリテーションが極めて重要となります。抗ウイルス薬の投与は、ウイルス増殖を抑えることで神経損傷の進行を食い止める効果が期待できますが、一度損傷した神経の回復には時間を要することが多く、完全な回復が難しい場合もあります。